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日本企業とインド経済の関わり-2

長期滞在日本人の増加の影響は、インド社会のさまざまな側面で現れてきている。例えば日本人コミュニティの緩やかな形成が誕生しており、それは多様な同好会の拡がりからも伺い知れる。延べ10年以上インドに駐在している、ある大手電機メーカーの現地法人社長の話では、最初にインドに赴任した90年代後半には、日本人女子の「女子会」なども定期的に開かれていたが、今では「女子会」という大きな枠組みで開くと、参加者数十人が直ぐに集まって規模が大きくなり過ぎてしまい収集がつかないものになってしまうらしい。そこで「女子ダンス会」や「女子コーラス会」などというように、細分化され、より趣味に特化した会が開かれてくるようになったと話していた。確かに、インド在住日本人向けフリーペーパー「チャロー」にはサークル活動情報が載っているが、スポーツ同好会から始まり、インドならではボリウッドダンス部などのオーソドックスなものから、日本の出身大学や、県人会、85年生まれの人のみが集う会など多彩であった。

 人の集うところにビジネスチャンスがある。日本人向けの産業も徐々に発達してきており、日系ビジネスホテルやスーパーマーケット、日本食レストランはもとより、日本での受験に対応した進学塾、スパ、クリーニング店、パソコン修理サービス、美容室、低農薬や無農薬野菜のインターネット販売なども開業されている。日系ホテルでは、日本語のNHKが時間差なしで放送されており、ホテルのフロントも日本語対応の受付係がいる。日本人向けのサービスアパートに併設されている日本食レストランので週末にランチなどに行くと、お客は日本人だらけであり店員のインド人も日本語で対応してくれるので、一瞬日本にいるような感覚すら覚える。なかには日本で食べるのと遜色のない質の料理とサービスを堪能できる店もある。

 

 ただしそのような日本人向けビジネスの大半は主に駐在員向けである。インドの日本人社会で、現地採用はプリゼンスが低いことと可処分所得が少ないので、まだまだ規模の小さい日本人向けの現地市場では、顧客層として見られていない節がある。例えば、インドの無料日本語情報誌「チャロー」のリサイクルショップの宣伝文句には、「外交官や大使館員、駐在員の皆さまのためにガレージセールやオークションを開催しています。」と出ていた。そこに現地採用を含めその他日本人については、顧客ターゲットからは完全に外されている。あくまで資本を持つ上記三つのカテゴリーに属する者だけに焦点を絞った商売が展開されており、日本人富裕層に特化したビジネスは存在するが、現地採用をターゲットにしたものはまだ誕生しておらず、現地採用は日本人向け市場のインビジブル(不可視)な存在だといえよう。

 

 さて、駐在員や経済的に余裕のある日本人対象のビジネスが発展し、日本人にとっても住みやすい生活が徐々に整備されてきているインドだが、それでも隣国のアジアと比べるとまだまだ小規模で細々としたものである。後述するだが、1980年代のプラザ合意からすでに製造拠点になっていたタイや、税制優遇を通じ外国企業を誘致し立国したシンガポールなどと比べると、インドは日本人にとっての生活インフラが十分整っているとは言い難い状況である。できるだけ日本にいたときと遜色のない生活をするため、インド出向の駐在員たちは定期的にシンガポールやタイなどのアジア隣国に渡り、生活に必要なものを買出ししている。日系企業の事業展開が早かったこれらの国は、今やその国だけではなく、アジア全体の「駐在員の生活保養ハブ地」となり日本の駐在員たちを支えているのだ。インドを含めた近隣諸国駐在の勤労者をターゲットにしたビジネスがタイやシンガポールで登場しており、日本人対応の病院や冷凍した日本食を提供するシンガポールの企業など、アジアに住む日本人を対象にビジネス展開が急速に発展している。