インドの将来性に対する疑問-現地採用日本人の視点

 世界を席巻する経済発展が期待されるインドではあるが、それも増え続ける若年人口が技能や教育を受け、高い生産性を生み出し、消費者として購買力ある場合を前提としてている。もし教育の普及に失敗し生産性の低い労働者や失業者が増えた場合には、社会保障によって彼らを養生しなければならず、これは国にとって大きな負担となる。巨大な若年人口を抱えるインドでは、政府は慎重な経済政策の舵取りをしなければならない。

 しかしインドの実相を俯瞰すると暗澹たる未来像が浮かんでくる。インドの経済発展の岐路が特殊であり、また富の分配がすべての国民に行き渡っているわけではないからだ。 

 通常、日本、韓国、中国などが経験したように、国の産業構造というのは「ぺティ・クラークの法則」と呼ばれるように、農業や漁業などの第一産業から、製造業、そして資本・知識集約型産業であるITや金融業などの第三次産業と段階的に移行するのが通例である。しかしインドの場合はその法則が当てはまらない。中国と比較したときに明確であるが、1978年の時点で両国の農業従事者は労働人口全体の71%を占めていたが、それが2004年までにその割合は、インドと中国でそれぞれ57%と47%の開きがでた。製造業は労働集約型産業であるため、雇用の創出という意味で非常に重要であるが、2000年代後半には入り、インドにおいて雇用口が減っている(Thomas, 2012)。サービスセクターは雇用吸収力が低いため、雇用の受け皿としては期待できず、農業と製造業で雇用が創出されていないことから、インドの経済成長率は「雇用なき成長」が続いているといえる。今後ますます労働人口が増えるなかで、就職したくても雇用先がなく仕事にあぶれる失業者が増えることが懸念されている。

 また所得においても、産業別による所得格差が広くなっており、労働集約型産業の第一次、二次産業に従事する者の所得の伸びは、国の経済成長率に比べて緩慢であり。特に労働人口の約6割が従事し、雇用の受け皿となっている農業分野では、一人当たりGDPが93年度の1.7万ルピーから、2007年年度は2.4万ルピーにとどまる一方で、ITなどのサービスセクターでは、93年の9.4万ルピーから07年度は22.2万ルピーと約2.5倍増えた(小林、2011)。つまり、雇用吸収力の低いサービスセクターに従事する一部の労働者のみが経済成長の恩恵を享受し、全階層に分配されていないため、国民の経済格差が広がっている。

 

 加えて、優秀な人材を輩出するには基礎教育が肝心であるが、インドでは全ての国民が公教育を十分に受けているとは言いがたい現状である。確かに、教育の普及はある程度まで改善はされてきている。1991年に人口全体の52.2%の識字率だったのが、2011年には74.0%にまで上昇した。また高等教育に関しては、インドには大学とカレッジがあるが、大学では大学院の進学を前提としたカリキュラムが組まれているのに対し、カレッジは学部レベルで教育システムが編成され、そのなかで、インド工科大学のような世界的に有名な大学もあり、インドの教育カリキュラムの層の厚さを誇っている。若年人口の増加と共に高等教育機関数と就学者数は年々増加傾向にある。1950年には大学数は30校だけだったのが、2008年には431校まで増えた。1950-51年には、高等教育に進学の生徒数は26万3000人だったが、2005年に110万にまで伸び、毎年、進学率は5.1%伸びている (Kaul, 2006)。