求められるインド現地採用人材像と雇用待遇 -現地採用日本人の視点

   ここからは、インドの現地採用について焦点を当ててみよう。インドの現地採用として求められる一般的な人材像と、現在の現地採用雇用動向について描写していく。

 他の研究で明らかになっているが、香港やシンガポールで就労する多くの現地採用日本人が女性である。同様にインドでも現地採用は女性就労者が多数派を占め、大手人材派遣会社のリクルート・ホールディングの海外事業会社であるRGFインドによると、登録者の8、9割の現地採用は女性だという。

 ではなぜアジアの現地採用に女性が多いのだろうか。この差の原因として、日本の雇用環境が背景にあると香港の現地採用を研究した酒井が話す。日本の企業はいまだに男性が中心であり、女性が周縁的な位置に立たされている。日本の雇用制度では非正規雇用者は、組合員資格がない、長期勤続でも賃金の上昇が見込めないなど、正社員とさまざまな違いがある。女性と若年者の多くが非正規労働者として雇用される現状がある。平成26年版「国民生活基礎調査の概況」の調査では、男性の非正規雇用の率が22.2%なのに対し、女性は57.0%と2.5倍以上多い。更に平成26年民間給与実態調査統計によると、男性は514万円に対し、女性は272万円であった。これには、配偶者扶養枠内の「所得103万円/130万円」以内に意図的に収める例もあるので、この数字差を額面どおり受け止め男女の経済的格差を論じることは危険である。それでも社会的に女性が男性よりも労働市場で周辺的な位置に立たされていることを、ある程度証左している。

 アジアでの現地採用の場合、現地採用国の物価水準にあわせた賃金なので、日本よりも給与が少なくなることがしばしば発生する。しかしもともと日本で安価な賃金で雇われている女性とっては、海外就労した場合でも、経済面で男性よりロスが少ないということになる。更に、日本の雇用システムでは頻繁な配置転換が伴うことが多く、そのような条件を呑める環境で昇進していく女性が少ないのが実情である(濱口、2009)。よって、キャリアの面でも一度海外就労することで受けるデメリットは、日本での社会的地位が低い女性のほうが少ない。

 

 但し、このような男女比率の差も近年変化が起きていると、別の某大手人材派遣会社インド法人の日系企業担当者は話す。全体としては女性登録者のほうが多いが、月によっては男性登録者数が上回ることもあるといい、さらにインドへの志望動機も徐々に変化していると担当者は話す。かつてはインド好きがたたり、その滞在手段として現地採用を選択していた人が大半だったのが、近年はインドの経済成長を期待してベンガル湾を渡ってくる人が増えてきたという。