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求められるインド現地採用人材像と雇用待遇 -現地採用日本人の視点

それでは、日系企業が好んで雇用する現地採用の平均像を描いてみよう。

 人材派遣会社数社の意見を総合させると、20代から30代の現地採用が最も多い年齢集団であるが、それに限らず40代から60代まで幅広い年齢分布を見せているという。60代で日本で定年を終えた後に、現地採用でインドで働く、そんなバイタリティに溢れた人もいるのかと驚いたが、かなり限定的にピンポイントの目的で雇用されるパターンだという。これまで長年培った経験を活かし若手では責任過重で遂行が不可能な、たとえば、新規プロジェクトを立ち上げる指揮・監督者の責任を担うポジションに充てられる。かつてインドに駐在していたとか、技術士数十年のベテランなどの豊富な経験もつなど、異文化環境にも耐性があり、加えて専門的な技術や知識を持つ人が採用されるという。インドは日本の生活と大きく異なるため、比較的高齢の労働者を現地採用として雇う場合には、企業側も受け入れ態勢を万全に整える。会社が住宅を提供したり英語ができない者には通訳をつけるなど、できるだけストレスのかからないように、さまざまな福利厚生がセットになって雇用される。

インドの現地採用のほとんどが日本で社会人経験を積んできた者であるが、学校を卒業後にいきなり海外で働くことに抵抗を感じるのと同時に、日本企業の場合には社会人未経験の全くの新入社員を採りたがらないというのも関係している。前述したように、現地採用の需要が発生したそもそもの理由に、日系企業が完璧にはローカライズできない日本的「気遣い」や「気配り」などに付加価値を置くため、日本人労働者を重宝してきた背景があった。なので、新卒ではなくある程度ビジネスマナーがあって、日系企業での働き方を知っている使い勝手の良い現地採用のほうが好まれる。これは言い換えれば、業務内容のスキルや能力とは全く関係なくして、日本の企業風土を知ってさえいれば、日系企業においては日本人現地採用のマーケットバリューはぐっと高まることを意味する。反対に、たとえ優秀なスキルを持っていても、日本での就労経験がないことは減点要素と見られてしまう。

 その例として、インフォーマントの一人正子さんの経験を紹介しよう。正子さんは某外語大学で日本語学科を卒業後すぐインド人男性と結婚し、インドに渡った。結婚、出産で子供を手を離れたことから、親戚の紹介で日印IT合弁企業に入社し、キャリアをスタートさせた。会社創立初期からヒンディー語、英語、日本語を駆使して、通訳やマーケティングなど幅広く業務をこなし、日本とインドの仲介役としてプロジェクトマネージャで、インド人十数名を監督する立場にあった彼女も、しばしば日本人顧客の嫌味には腹が立ったと話す。日本人ビジネスマンに、交渉の際に何か提案をしようとすると、「でも、あなた日本で働いたことないんでしょ?」と日本式のやり方では正子さんの考えは通用しないと暗に言われ、提案を聞いてもらえないこともあり悔しい思いをした。このため、13年間IT会社で勤務した後に転職の際には、日本で就労経験がないことの引け目を克服するために、日系企業勤務の希望で転職活動を行い、現在は財閥系大手商社に勤めている。

 

 日本で社会人経験のある日本人にとっては、日系企業が「日本式」に固執することは、非常に有利でありがたい話である。しかし、会社の競争力を考えた場合に、果たしてそれが利益になるのかは疑問である。日本語を知らない、日本のビジネスマナーを知らないというだけで、優秀な人材を逃している可能性はないだろうか。日系企業は海外進出するにあたり、「日本のやり方」や日本型ビジネス至上主義について少し柔軟なスタンスを取るべきだろう。